名古屋市南区・笠寺の精神科・神経科病院

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パーキンソン病

患者さまとご家族の方へ(このページの簡単な要約)

「パーキンソン病」は、脳内の神経を調節する物質(ドパミン)が減ることによって、「手足が震える」「筋肉がこわばる」「動作が遅くなる」「転びやすくなる」といった、お体の動きに障害が出る進行性の病気です。

お体の不自由さに加えて、実は「気分がひどく落ち込む(うつ)」「夜眠れない」「そこにいない人や物が見える(幻覚)」といった精神的な症状を伴うことも多く、ご本人とご家族の不安が大きくなりやすい特徴があります。

当院では、お体の動きをなめらかにするお薬の調整はもちろんのこと、幻覚や気分の落ち込みといった症状に対するケアも専門的に行います。お体の不自由さを和らげる治療と、心穏やかに過ごすためのサポートを両立させ、患者さんができる限り自分らしい生活を続けられるよう総合的に診療します。

パーキンソン病における精神症状と治療のジレンマ
パーキンソン病(Parkinson’s Disease: PD)は、中脳黒質などのドパミン神経系が変性・脱落することで、振戦、筋強剛、運動緩慢、姿勢反射障害といった運動症状を来す進行性の神経変性疾患です
。しかし、病期が10〜20年と進み進行期あるいは後期に達すると、ドパミン神経だけでなくセロトニンやノルアドレナリン、アセチルコリンなど多数の神経系に変性が広がり、認知症(PDD:認知症を伴うパーキンソン病)や、幻覚・妄想、抑うつ、アパシーなどの広範な精神症状(非運動症状)を高頻度に出現するようになります(Kalia LV, Lancet, 2015)。 パーキンソン病の治療において最も臨床上困難とされるのが、「運動症状の改善」と「精神症状のコントロール」が天秤の関係にあるというジレンマです。体の動きを良くしようとパーキンソン症状治療薬を強化すると精神症状が悪化し、逆に精神症状を抑えようと抗精神病薬などを用いると体の動きが著しく低下(パーキンソニズムの悪化)して寝たきりや誤嚥性肺炎のリスクを高めてしまうため、神経症状と精神症状の双方に気をつけたコントロールが求められます。

ドパミンアゴニスト等の使用に伴う幻覚・妄想悪化のリスク
パーキンソン病の薬物治療において、ドパミンアゴニスト(ドパミン受容体刺激薬:プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチンなど)は、脳内のドパミン受容体を直接かつ強力に刺激するため、優れた運動改善効果を持つ反面、幻覚や妄想、さらには病的賭博や性欲亢進といった衝動制御障害(ICD)を誘発・悪化させやすいという高いリスクを抱えています
。各薬剤の添付文書でも5%以上の頻度でこれら精神症状の副作用が明記されており、ガイドラインでも注意喚起がなされています
また、古典的な治療薬である「抗コリン薬」はせん妄や深刻な記憶障害(認知機能低下)を来しやすく、高齢や認知機能低下を伴う患者さんにおいては、幻覚・妄想や錯乱などの神経精神症状を悪化・誘発させる危険性が高く報告されています(Goldman JG, Mov Disord, 2008 / Molloy S, J Neurol Neurosurg Psych, 2005)。運動症状ばかりに目を奪われ、これらの薬剤を漫然と維持・増量することは、精神症状を悪化させ、ひいては在宅介護の崩壊や介護施設での受け入れ困難(利用拒否)を招く要因となります

精神症状・認知機能を悪化させにくい先進的治療方針
当院では、患者さんの精神の安定と自立した身体運動の維持を両立させるため、薬理学的エビデンスに立脚した「精神症状を悪化させないパーキンソン病治療」を目指しています

  • レボドパ(L-ドパ)製剤への集約と「少量頻回分割投与」のコツ
    幻覚や妄想の兆候が見られた場合、まずは精神症状のリスクが極めて高いドパミンアゴニストや抗コリン薬等を慎重に減量・中止し、最も精神症状を惹起しにくい「レボドパ製剤」へと処方を集約していきます
    。レボドパ製剤は、1年以上の長期投与を行った大規模な追跡調査においても、BPSD(精神・行動症状の指標であるNPIスコア)を有意に悪化させないことがエビデンスとして実証されています(Lucetti C, Parkinsonism and Related Disorders, 2010)。進行期における運動合併症(お薬の効果が切れるウェアリングオフ現象や、不随意運動が起きるジスキネジア)に対しては、1回量を増やして対応するのではなく、「低用量のレボドパを1日4〜7回に細かく分割して服用する(少量頻回投与)」というアプローチを取ります。これにより血中濃度の急激な乱高下を防ぎ、受容体への過剰刺激(精神症状の悪化)を徹底的に回避しながら、安全にお体の有効治療域を維持することが可能となります

  • 非ドパミン系薬「ゾニサミド(トレリーフ®)」の戦略的併用
    レボドパの増量が精神症状の壁に阻まれて困難な場合、あるいはレボドパだけでは振戦(ふるえ)やウェアリングオフのコントロールが不十分な場合、次の一手としてトレリーフ®(一般名:ゾニサミド)の追加併用を検討します
    。ゾニサミドはドパミン系への作用のみならず、T型Caチャネル阻害などの「非ドパミン系作用機序」を併せ持つ薬剤です。国内外の厳格な二重盲検比較試験において、認知機能(MMSE)や精神症状(NPI-10合計スコア)を悪化させることなく、運動能力(UPDRS Part Ⅲ)を有意に改善させ、1日のオフ時間を約1.5時間短縮するという効果が示されており、進行期におけるジレンマを打破するための治療選択肢の1つとなっています(Murata M, Neurol Clin Neurosci, 2016 / Murata M, Mov Disord, 2015)。また、アゴニストからゾニサミドへ安全に切り替えることで、運動能力を維持したまま幻覚や精神症状を優位に減少させたとする臨床報告もあります(阿部隆志, 臨床神経学, 2021年)

最新トピックス:持続皮下注入療法「ヴィアレブ®」とその革新的マネジメント
進行期パーキンソン病の新たなデバイス治療としてトピックスとなっているのが、ヴィアレブ®(一般名:ホスレボドパ/ホスカルビドパ水和物配合剤)です
。携帯型ポンプを用いて24時間連続でレボドパ液を皮下注入し、血中濃度を常にフラットに保つことで、長年経口薬の限界に達していた重度のウェアリングオフを劇的に解消し、歩行機能や生活の質(QOL)を改善させることができます。しかし臨床現場においては、24時間ドパミン刺激が加わり続ける特性上、「幻覚・妄想の出現や悪化、夜間のせん妄リスク」が高いという課題があり、精神症状のコントロールに難渋するケースも少なくありません。 当院では、このヴィアレブ®により生じた精神症状に対しての対応もしていますこれにより、幻覚・妄想のリスクを極小化しながら、身体の動きやすさを引き出すことが期待できます

是非、ご相談ください
「幻覚や妄想、おかしな言動があるからパーキンソン病の薬を増やせない」「これ以上、体の動きを良くすることは諦めるしかない」と主治医の先生から告げられたり、ご家族だけで悩まれていたりすることはないでしょうか
。体の動きやすさと、穏やかな精神状態は、最新の医学的知見ときめ細やかな調整によって両立させることができます。当院の「脳とこころの専門外来」では、薬物療法の基本的な調整から最新のデバイス治療のアドバイスまで包括的に対応しておりますので、お困りの際はぜひご相談ください。

この記事の執筆者

岩田 邦幸 (笠寺精治寮病院 副院長 / 医学博士)

精神保健指定医、日本専門医機構精神科専門医、日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、臨床神経心理士、日本医師会認定産業医。脳神経内科と精神科の二刀流Drとして両科の知識と経験を活かし、「脳とこころの専門外来」にて最新のエビデンスに基づいた神経精神分野(neuropsychiatry)の診療、パーキンソン病治療、認知症治療・BPSD治療などを提供している。

主な疾患・病態

精神症状を伴う神経疾患、精神科治療薬により生じた神経症状の治療を行っています。
それぞれの専門的な治療方針については各記事を参照してください。

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