名古屋市南区・笠寺の精神科・神経科病院

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前頭側頭型認知症

患者さまとご家族の方へ(このページの簡単な要約)

「前頭側頭型認知症」は、もの忘れよりも先に、「人が変わったように自己中心的になる」「順番待ちや交通ルールが守れなくなる」「毎日同じ時間に同じ行動を繰り返す」といった、性格や行動の変化が目立って現れる病気です。

一般的な認知症とは症状が大きく異なるため、周囲も「わがままになった」「怒りっぽくなった」と捉え、病気だと気づきにくく、ご家族の戸惑いや介護の負担が非常に大きくなるのが特徴です。

現在のところ、この病気を根本から治すお薬はありません。しかし当院では、患者さんの興奮やイライラを和らげるためのお薬の調整や、ご本人が少しでも穏やかに過ごせるための「ご家族の対応のコツ・環境づくり」のアドバイスを通じて、患者さんとご家族の生活をサポートします。

前頭側頭型認知症(FTD)とは(疾患の概念と分類)
前頭側頭型認知症(Frontotemporal Dementia: FTD)は、大脳の前頭葉や側頭葉を中心とした神経変性によって引き起こされる認知症性疾患の総称です
。医学的な広義の解剖病理診断名としては「前頭側頭葉変性症(FTLD)」と呼ばれ、蓄積する異常タンパク質(タウ蛋白やTDP-43、FUSなど)の種類にかかわらず、前頭葉・側頭葉に変性の主座がある疾患群を包括する疾患概念です。FTLDの主要な臨床症候群(変性萎縮部位に依存した病型分類)は、大きく以下の3つに整理されます

  • 行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)
    主として前頭葉(底面・内側面・外側面)の障害により、初期から人格変化や社会的行動障害、脱抑制などが前面に出る病型です

  • 進行性非流暢性失語(PNFA / 非流暢性・失文法型PPA)
    主として左下前頭回(ブローカ野周辺)から中心前回にかけての変性により、言葉がスムーズに出なくなる「発語失行」や、文法的な正確性が失われる「失文法」を初発とする病型です

  • 意味性認知症(SD / 意味型PPA)
    主として側頭葉前方部(側頭極など)の変性により、言葉や物品そのものの「意味(語義)」の理解が失われていく病型です

認知機能のうち失語症状が先行して生じる病態は「原発性進行性失語(PPA)」と総称されますが、そのうち「非流暢性/失文法型(nfvPPA)」は進行してPNFAへ、「意味型(svPPA)」はSDへと移行し、これらはFTLDの代表的疾患に位置づけられます。一方で、復唱障害や喚語困難を主徴とする「ロゴペニック型失語(lvPPA)」の多くは、病理背景としてアルツハイマー型認知症(AD)の臨床亜型であることが分かっており、同じ進行性失語であっても背景病態によって注意深い鑑別が必要となります

特徴的な臨床症状(社会的行動障害と常同行為)
特にbvFTDにおいて患者さんやご家族を最も悩ませるのは、記憶障害が比較的軽度であるにもかかわらず顕在化する、前頭葉機能不全に伴う特徴的な心理・行動症状(BPSD)です

  • 脱抑制・モラルの欠如(眼窩前頭皮質・腹内側前頭前皮質の障害)
    社会的なルールや周囲への配慮が低下し、万引きなどの衝動的・逸脱行動、心理検査や診察の拒否、場にそぐわないわがままや易怒性が現れます

  • 常同行動・過剰なこだわり(眼窩前頭皮質と大脳基底核ループの脱抑制)
    強迫性障害のような不安や心理的葛藤(自我違和感)を伴うことなく、自らの意思で淡々と特定の奇妙な行動を繰り返します
    。毎日同じ時間に決まったコースを徘徊する「常同的周遊(時刻表的行動)」、同じフレーズや話を繰り返す「常同言語(オルゴール時計症状)」、毎日同じものを食べるといった「常同的食行動異常」などが典型例です

  • アパシー・自発性の低下(背外側前頭前皮質・前部帯状回の障害)
    自発的な意欲、計画を立てて実行する機能(実行機能)が著しく低下し、他者への人間的な温かさや共感・関心を全く示さなくなるアパシーが生じます

治療の現状:非薬物療法と薬物療法の位置づけ
前頭側頭型認知症の根本的な病態進行を止める疾患修飾薬は現時点で存在せず、治療方針の策定はきわめて困難です
。そのため、いわゆる「非薬物療法」が治療の第一になります
例えば、患者さんの「時刻表的行動」や「こだわり」を無理に制止・強制修正しようとすると、激しい拒絶や暴力・興奮を引き起こすため、むしろその常同的な生活パターンをデイサービスや生活環境の中にそのままルーチン(日課)として組み込み、生活の安定を図るアプローチ(環境調整)が最も有効です

一方で、介護崩壊に直結するような脱抑制行動や過食、常同行為による周辺トラブルに対しては、対症療法としての「薬物療法」を考慮します

一般的なアルツハイマー型認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害薬など)は、前頭側頭型認知症においてはかえって興奮や脱抑制を悪化させるケースがあるため、原則として使用を控えます
。代わりに、衝動性や過食、強迫的なこだわりの軽減に対してエビデンスが示されている「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」や、セロトニン作動性および鎮静作用を併せ持つ「トラゾドン」などを選択し、BPSDの緩和を試みます

興奮・脱抑制が強い場合の入院治療と「施設入所」へのロードマップ
行動障害や興奮、粗暴行為が著しく、介護負担が限界を超えて在宅生活や通常の通所・ショートステイの利用が困難となった(利用拒否や加害行為に発展した)局面においては、一時的に精神科病棟での入院治療による介入を検討します
。 入院治療における薬物調整では、重大な身体合併症やQOL低下につながる過度な過鎮静(寝たきり化)を厳格に避けなければなりません。原疾患を悪化させないよう細心の注意を払いながら、興奮や衝動性を安全にコントロールできるお薬(若干の抗精神病作用や心理的尖りを丸める鎮静特性を持つ抗精神病薬や抗てんかん薬など)を、必要最小限の用量からきわめて慎重に導入・漸増していきます。 当院における入院加療のゴールは、精神科病院への長期社会的入院ではなく、あくまでお薬の適正化(効果と副作用の厳密なバランス管理)によって激しい不穏や暴力を寛解させることにあります。行動障害を周囲のスタッフが適切にマネジメントできる安全なレベル(施設受け入れ可能な状態)まで整えた上で、ケアマネジャーやご家族と密に連携し、専門的なケアが受けられる介護施設等へのスムーズな移行(施設入所)を確実に行うための橋渡しをサポートします

この記事の執筆者

岩田 邦幸 (笠寺精治寮病院 副院長 / 医学博士)

精神保健指定医、日本専門医機構精神科専門医、日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、臨床神経心理士、日本医師会認定産業医。脳神経内科と精神科の二刀流Drとして両科の知識と経験を活かし、「脳とこころの専門外来」にて最新のエビデンスに基づいた神経精神分野(neuropsychiatry)の診療、パーキンソン病治療、認知症治療・BPSD治療などを提供している。

主な疾患・病態

精神症状を伴う神経疾患、精神科治療薬により生じた神経症状の治療を行っています。
それぞれの専門的な治療方針については各記事を参照してください。

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