「たかが頭痛」と我慢したり、市販の痛み止めを飲み続けていませんか? 特に、ズキズキと痛んで仕事や家事に手がつかなくなる「片頭痛」などは、適切なお薬でコントロールすべき立派な病気です。
当院には頭痛関連の専門医が在籍しており、痛みが起きた時に抑えるだけでなく、「頭痛が起こる頻度を減らす(予防する)」ための専門的な治療を行っています。
これまで治療が難しかった重い片頭痛に対しても、近年登場した「エムガルディ®」や「アジョビ®」といった最新の注射薬(予防薬)や、新しいタイプのお薬を取り入れています(※これらの最新治療は、専門医がいる施設でしか受けることができません)。慢性的な頭痛でお悩みの方は、一人で我慢せずにご相談ください。
片頭痛と精神疾患(うつ病・不安症)の密接な関係
片頭痛(Migraine)は、脈打つような激しい頭痛発作が反復し、悪心や光・音過敏などを伴うことで著しい生活障害をもたらす、脳の機能性慢性疾患です(Buse DC, Cephalalgia, 2020)。臨床上きわめて重要なのは、片頭痛患者さんにおいて、うつ病(約40.7〜47%)や不安症(約51〜58%)、パニック症など、様々な精神疾患の合併率が一般に比べて高いという事実です(Lipton RB, Neurology, 2000 / Smitherman TA, Headache, 2013)。 精神疾患の発症は、単に「頭痛のつらさによる心理的ストレス(心因)」だけが原因ではありません。当院では、生物学的・心理学的・社会的な要素が複雑に絡み合う「生物心理社会モデル(BPSモデル)」に基づいて病態を捉えています(Engel G, Science, 1977)。疫学調査においても、片頭痛の存在自体がうつ病の新規発症リスクを約1.4〜3.4倍に上げることが立証されており(Zwart JA, Eur J Neurol, 2003 / Breslau N, Neurology, 2003)、片頭痛と精神疾患は「どちらかが原因でもう一方が生じる」という単純な関係ではなく、互いに深く影響し合う双方向の病態であることが明らかになっています。
反復性片頭痛から慢性片頭痛への移行:うつ病・不安症がもたらす「慢性化リスク」
片頭痛は、月に数回程度発作が起きる「反復性片頭痛(EM)」の段階から、頭痛が月に15日以上かつ3ヶ月以上続く「慢性片頭痛(CM)」へと年間約3%の割合で進行・重症化していくことが知られています(Bigal ME, Headache, 2008)。この慢性化を引き起こす最大の危険因子のひとつが、うつ病や不安症の合併です(Katsarava Z, Neurology, 2004 / Ashina S, J Headache Pain, 2012)。
頭痛の頻度が高くなるほど精神疾患の合併率は上昇し(反復性でのうつ病合併約17.2%に対し、慢性片頭痛では約30.1〜41.2%に上昇)、さらに不安症やうつ病が存在すること自体が、脳の過敏性(感作)を高めて頭痛発作の治療抵抗性を生み、慢性片頭痛への移行を加速させるようです(Buse DC, J Neurol Neurosurg Psychiatry, 2010 / Lipton RB, Headache, 2020)。
したがって、頭痛の悪化を防ぐためには、背景にあるうつ病やパニック症、全般性不安症(GAD)などの精神症状を早期に発見し、同時に治療していく戦略が不可欠となります。
なぜ併存するのか:セロトニン仮説と脳内の共通メカニズム
片頭痛の「三叉神経血管説」とうつ病の「モノアミン仮説」には、いずれも神経伝達物質であるセロトニンの低下が深く関与しています(Sicuteri F, Int Arch Allergy Immunol, 1961 / Coppen A, Br J Psychiatry, 1967)。
しかし、これらは単なる偶然や単純な脳内物質の不足だけではありません。 近年の脳機能イメージング研究により、片頭痛の発作が繰り返されると、脳の痛みを中継する「視床」の固有活動が減少し、感情や痛みの認知をコントロールする「内側前頭前野」や、脳幹の「背側縫線核」の活動低下を招いてセロトニンが減少していくという、うつ病の病態と完全に重なり合う脳内ネットワークの機能低下が解明されてきました(Ma M, J Headache Pain, 2018 / Zhang Q, J Cell Mol Med, 2019)。
また、不安症に見られる「恐怖回路(扁桃体など)」の過剰な活性化も、片頭痛を慢性化させる中枢経路の感作と深く結合しています(Mungoven TJ, Front Pain Res (Lausanne), 2021)。
つまり、片頭痛の痛みと精神症状は、脳内の同一の機能低下回路から生じている表裏一体の症状であると言えます。
エビデンスに基づくトータルバランス治療方針:抗CGRP抗体薬などの活用
片頭痛と精神疾患が合併している患者様の治療では、頭痛とこころの双方に目配りをした薬の選択が重要です(Minen MT, J Neurol Neurosurg Psychiatry, 2016)。
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従来の予防薬における注意点
既存の頭痛予防薬である「β遮断薬(プロプラノロール)」や「抗てんかん薬(トピラマート)」は、片頭痛予防に有効である一方で、うつ病を潜在的に悪化・誘発させるリスクをはらんでいます(Minen MT, J Neurol Neurosurg Psychiatry, 2016)。
当院では、精神症状への悪影響が少なく、むしろ不安やうつ状態の軽減を同時に期待できる適切な抗うつ薬(SNRIや三環系抗うつ薬の低容量処方)など、双方のバランスを考慮したアプローチを行います。 -
抗CGRP抗体薬「アジョビ®」「エムガルディ®」、抗CGRP受容体抗体薬「アイモビーグ®」
現在、頭痛関連の専門医がいる施設でのみ使用が認められている注射薬である抗CGRP抗体薬(アジョビ®一般名:ホマネズマブ、エムガルティ®一般名:ガルカネズマブ)や抗CGRP受容体抗体薬(アイモビーグ®一般名:エレヌマブ)などの登場により、併存例への治療は劇的な変化を遂げています。 大規模な臨床研究(HALO CM研究)において、アジョビ®(一般名:ホマネズマブ)はうつ病を合併した慢性片頭痛に対しても優れた頭痛発作軽減効果を発揮することが実証されています(Lipton RB, Headache, 2021)。さらに、米国のリアルワールドデータ(後ろ向き観察研究)では、アジョビ®の投与によって片頭痛日数が約66〜68%減少すると同時に、うつ病の改善率45.5%、全般性不安症の改善率45.8%と、頭痛だけでなく共存する精神症状そのものをも改善させることが報告されています(Driessen M, J Headache Pain, 2022)。前向きコホート研究でも、抗CGRP療法によるうつ症状の改善(約63.5%に好影響)は、頭痛頻度の減少とは独立して脳内に直接作用している可能性すら指摘されており、難治性とされていた併存患者様の大きな希望となっています(Torres-Ferrus M, Cephalalgia, 2024)。
※CGRP = カルシトニン遺伝子関連ペプチド -
注射が苦手な方へ:利便性と柔軟性を備えた「内服CGRP製剤(ゲパント系)」
注射薬と同等にCGRPの働きをブロックする内服CGRP製剤(CGRP受容体拮抗薬)も2025年以降登場してきています。精神症状の波に合わせてお薬を調整したい方や、定期的な注射に心理的ハードルがある方に適した先進的な選択肢です。-
ナルティーク(一般名:リメゲパント) 口腔内崩壊錠(OD錠)のため、外出先などでも水なしでスマートに服用できます。「急性期治療(発作時の頓服)」と「発症抑制(予防)」の両方に使用できる国内初の画期的なマルチマネジメント薬です。
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アクイプタ(一般名:アトゲパント) 予防専用として毎日服用するタイプの錠剤です。うつ病の悪化リスクをはらむ従来の予防薬を避けたい方や、既存の予防治療で効果が不十分だった片頭痛患者さんの発作を、計画的に未然へと防ぐために使用されます。
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急性期最新治療薬「レイボー®」の導入
頭痛発作が起きた際の頓挫薬としても、従来のトリプタン製剤の適切な選択に加え、血管収縮作用を持たずに三叉神経系へ選択的に作用する片頭痛治療薬「レイボー®(一般名:ラスミジタン)」も取り入れ、安全で確実な痛みの遮断を行っています。
当専門外来での「ワンストップ対応」:別々ではなく関連する症状です
「精神科に通っているが、激しい頭痛のことは一般の内科に相談している」「脳神経内科で頭痛を診てもらっているが、気分の落ち込みやパニック発作のことは言い出しにくい」など、別々の病院に足を運び、お薬の飲み合わせや治療のズレに不安を抱えていないでしょうか。 当院の「脳とこころの専門外来」では、脳神経内科と精神科の専門医資格をを併せ持つ医師が、国際頭痛分類に基づく診断を行い、抗CGRP抗体薬やレイボー®を用いた頭痛治療と、エビデンスに基づくうつ病・不安症の薬物療法および精神療法を、ひとつの外来で提供しています。頭の痛みとこころのつらさは、脳の中で固く結びついていると考えられます。当院の専門外来へご相談してはいかがでしょうか。
※症状が軽減・改善した後は、お近くの頭痛専門医での外来診療継続も可能です。

この記事の執筆者
岩田 邦幸 (笠寺精治寮病院 副院長 / 医学博士)
精神保健指定医、日本専門医機構精神科専門医、日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、臨床神経心理士、日本医師会認定産業医。脳神経内科と精神科の二刀流Drとして両科の知識と経験を活かし、「脳とこころの専門外来」にて最新のエビデンスに基づいた神経精神分野(neuropsychiatry)の診療、パーキンソン病治療、認知症治療・BPSD治療などを提供している。