アルツハイマー型認知症は、もの忘れなどの症状が少しずつ進行していく病気です。当院では、もの忘れが気になり始めた「ごく初期の段階」から、不安やイライラなどの「こころの症状」に対しても、サポートを行います。
また、患者さんの病状(段階)に合わせて、きめ細やかな治療を提供しています。
・初期: 病気の進行をできるだけ遅らせる治療
・中等度: 日常生活の能力を保ちつつ、こころの不安定さを和らげる治療
・重度: お体の状態に合わせた医療ケア
外来での通院治療はもちろん、必要に応じた入院治療にも対応しております。どの段階であっても、患者さんとご家族が安心して過ごせるよう、診療を行っています。
アルツハイマー型認知症とは
アルツハイマー型認知症は、記憶障害を中心として、徐々に脳機能が低下していく疾患です。進行すると、記憶障害だけでなく、言葉が出なくなる(失語)、動けるのにもかかわらず目的を持った運動ができなくなる(失行)、視覚・聴覚・触覚の情報を理解する能力の低下(失認)、計画を立て目標を達成する機能の低下(実行機能障害)などの症状を伴い、仕事や社会生活を送ることに大きな支障が出てきます。
なぜ早期から精神科(認知症専門医)の関与が必要なのか
認知症というと「もの忘れ」のイメージが強いですが、実際には軽度認知障害(MCI)と呼ばれるごく早期の段階であっても、すでに50%を超える患者さんが不安、うつ、易刺激性などの「行動・心理症状(BPSD)」を有していることが示されています(Sheikh F, et al. Int Psychogeriatr 2018;30:233-244.)。 また、必ずしも「もの忘れ」からではなく、うつ状態や不安、アパシー、妄想といったBPSDから始まる場合もあります。当院では、初期の精神症状の背後に潜む認知症性疾患を正確に鑑別し、MCIや軽度行動障害(MBI)の段階から早期に適切な介入を提案することが可能です。
最新のエビデンスに基づく病期に合わせた治療
当院では、旧来の漫然とした治療ではなく、最新の診療ガイドラインや臨床試験のエビデンスに基づいた最適な治療を提供しています。
-
軽度認知障害(MCI)〜軽度認知症:疾患修飾薬による進行抑制
近年、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβを脳内から除去する新たな治療時代が幕を開けました。この治療により、認知症性疾患の進行を抑制することが期待されます(van Dyck CH, et al. N Engl J Med 2023 / Sims JR, et al. JAMA 2023)。当院は、レケンビ®(一般名:レカネマブ)やケサンラ®(一般名:ドナネマブ)のフォローアップ施設として登録しています。必要な方には、初回導入施設を紹介し、その後、当院にてこれらの薬剤のフォローアップ投与を行うことが可能です。また、投与が完了した後も、認知症性疾患のかかりつけ医として診療を継続することが可能です。 -
中等度認知症:最新ガイドラインに基づくアジテーション(BPSD)の最適治療
認知症に伴い、「落ち着かない」「怒りっぽい」「攻撃的になる」といったアジテーション(焦燥性興奮)が出現し、ご本人とご家族の生活を著しく脅かすことがあります。 過去には、こうした症状に対してバルプロ酸などの薬剤が使われることもありましたが、システマティックレビュー(Bailon SF, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018 )やメタ解析(Liu J, et al. Arch Gerontol Geriatr 2020)では有効性が確認されておらず、副作用の懸念からも最新のガイドラインでは使用は推奨されていません(日本神経学会 認知症疾患診療ガイドライン2017 / 同 2026)。 当院ではそうした旧来の治療を極力排し、身体的苦痛の除去や環境調整などの非薬物介入を最優先します。その上で薬物治療が必要な場合には、メマリー®(一般名:メマンチン)や、2024年9月に国内で新たに「アルツハイマー型認知症に伴うアジテーション」の適応を取得したレキサルティ®(一般名:ブレクスピプラゾール)などを最適に使用します。レキサルティ®(一般名:ブレクスピプラゾール)は、日常生活動作(ADL)や認知機能に悪影響を与えることなく症状を改善することが示されており(Nakamura Y, et al. Alzheimer’s Dement. 2024)、専門医のきめ細やかな用量調整により、安全性を担保しながらBPSDの緩和を図ります。
※必要な場合には、入院治療も提供できます。 -
高度認知症:身体的な医療とケア
病期が進行した高度認知症の段階では、嚥下機能の低下や感染症のリスクに配慮した身体的な医療と、尊厳を守る穏やかなケアを中心に行います。
当院では、いずれの病期であっても、外来・入院(認知症治療病棟)の両面から患者さんとご家族の生活を切れ目なくサポートする体制を整えています。

この記事の執筆者
岩田 邦幸 (笠寺精治寮病院 副院長 / 医学博士)
精神保健指定医、日本専門医機構精神科専門医、日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、臨床神経心理士、日本医師会認定産業医。脳神経内科と精神科の二刀流Drとして両科の知識と経験を活かし、「脳とこころの専門外来」にて最新のエビデンスに基づいた神経精神分野(neuropsychiatry)の診療、パーキンソン病治療、認知症治療・BPSD治療などを提供している。