「レビー小体型認知症」は、もの忘れなどの認知機能の低下に加えて、「そこにいない子供や動物が見える(幻視)」「手足が震えて歩きにくくなる」「寝言で大声を出したり暴れたりする」「便秘や立ちくらみがひどい」など、心と体にさまざまな症状が同時に起こる病気です。
この病気の治療で一番難しいのは、「幻視を抑えるお薬を使うと歩きにくくなり、歩きやすくするお薬を使うと幻視が悪化する」というシーソーのような関係があることです。そのため、一般的なお薬の出し方ではかえって症状を悪化させてしまう危険があります。
当院では、症状を悪化させるお薬は減らし、最新の医療データに基づいて「心穏やかに過ごすこと」と「体が動かしやすいこと」の全体のバランスが最も良くなるようなお薬の調整を慎重に行っています。
レビー小体型認知症とは(疾患の特徴)
レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies: DLB)は、アルツハイマー型認知症に次いで頻度の高い変性性認知症です。脳内に「αシヌクレイン」と呼ばれる異常タンパク質が凝集し、神経細胞を障害していくことで発症します。 本疾患の最大の特徴は、きわめて多彩な症状が併存する点にあります。具体的には、①注意障害や視空間認知障害を主体とする「進行性の認知機能低下」、②「小さな子供が部屋の隅に座っている」などと具体的に訴える「具体的な幻視や妄想」、③体が固くなり歩行が小刻みになる「パーキンソン症状」、④重度の便秘や立ちくらみ、尿失禁といった「自律神経症状」、⑤就寝中に大声をあげたり手足を激しく動かしたりする「レム睡眠行動異常症(RBD)」をはじめとする「睡眠障害」という、5つの主要なドメイン(カテゴリ)が存在します(Taylor & McKeith, Lancet Neurol 2020)。これらの症状は一様ではなく、症例や病期(進行度)によって現れ方や重症度のバランスが大きく異なるため、個々の状態に応じた包括的な評価が欠かせません。
治療における「最大のジレンマ」と難しさ
レビー小体型認知症の薬物治療をきわめて困難にしているのが、各ドメインの治療薬が相反する副作用をもたらすという「治療のジレンマ」です。 例えば、幻視や妄想、興奮といった精神症状(BPSD)をコントロールするために抗精神病薬を安易に投与すると、レビー小体型認知症特有の「抗精神病薬に対する感受性の亢進」によってパーキンソン症状や嚥下障害が急激に悪化し、最悪の場合には高熱や意識障害を伴う悪性症候群を惹起するリスクがあります。 逆に、歩行障害などのパーキンソン症状を改善しようとして一般的な抗パーキンソン病薬(ドパミンアゴニストや抗コリン薬など)を導入すると、脳内のドパミンやアセチルコリンのバランスが揺さぶられ、幻覚や妄想、せん妄といった精神症状が著しく増悪したり、起立性低血圧や便秘などの自律神経症状が深刻化したりします。このように、一方の症状を良くしようとすると他方が崩れるという天秤のような関係性があるため、単一の症状だけを追うお薬の出し方はリスクが高いといえます。
エビデンスに基づくトータルバランス治療方針
治療においては、5つのドメインすべてに目配りをし、効果と副作用の「全体のバランス」をきめ細かく調整するようにしています。
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認知機能・睡眠障害へのアプローチと「抗コリン薬の排除」
脳内の広範なコリン作動性神経の低下が病態の根底にあるため(Nejad-Davarani, Mol Psychiatry 2019)、脳血流を低下させ認知機能をさらに悪化させる「抗コリン作用」を持つ既存薬(一部の胃腸薬や頻尿治療薬、古典的な抗パーキンソン病薬など)は原則として徹底的に減量・中止します。その上で、有効性が立証されているコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)を軸に、認知機能の変動や精神症状、睡眠障害の安定化を図ります(Mori E, et al. Ann Neurol 2012)。 -
パーキンソン症状への安全なアプローチ(レボドパ少量分割とゾニサミド併用)
運動症状に対しては、精神症状を最も誘発しやすいドパミンアゴニストの使用を避け、ドパミン原材料を補うレボドパ(L-ドパ)製剤を選択します。ただし、精神症状の惹起やドパミン不応例(ノンレスポンダー)のリスクを考慮し、1日100~200mg程度の「低用量・少量頻回分割」から慎重に導入・調節します(Goldman JG, et al. Mov Disord 2008 / Molloy S, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2005)。
レボドパの増量が精神症状や自律神経症状の壁に阻まれて困難な場合、あるいはレボドパの効果が不十分な場合には、ゾニサミド(トレリーフ®25mg)の追加併用を積極的に検討します。ゾニサミドは、国内外の臨床試験において、レビー小体型認知症の認知機能障害や幻覚などの精神症状を悪化させることなく、パーキンソン症状(運動機能)を有意に改善することが証明されており、ジレンマを打破するための極めて重要な治療選択肢となっています(Ikeda M, et al. J Alzheimers Dis 2023)。
お薬の変更や追加にあたっては、便秘の悪化や起立性低血圧による立ちくらみ・失神リスク、体重減少や傾眠といった微細な副作用のサインを見逃さず、点ではなく線で患者さんのADL(日常生活動作)を支える最適なオーダーメイド治療を提供しています。

この記事の執筆者
岩田 邦幸 (笠寺精治寮病院 副院長 / 医学博士)
精神保健指定医、日本専門医機構精神科専門医、日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、臨床神経心理士、日本医師会認定産業医。脳神経内科と精神科の二刀流Drとして両科の知識と経験を活かし、「脳とこころの専門外来」にて最新のエビデンスに基づいた神経精神分野(neuropsychiatry)の診療、パーキンソン病治療、認知症治療・BPSD治療などを提供している。