「てんかん」は、脳の神経に一時的な電気の乱れが起こることで、突然の発作が繰り返し現れる病気です。発作というと「激しくけいれんして倒れる」イメージが強いですが、実際には「急に数秒間動作が止まってボーッとする」「返事をせずに口をもぐもぐさせる」といった、一見すると分かりにくい症状もたくさんあります。
特に近年では、高齢になってから初めて発作が起きる「高齢者てんかん」が増えています。これは認知症のもの忘れや、一時的な意識障害と間違われやすく、見過ごされてしまうケースが少なくありません。
当院では、正しく原因を診断した上で、患者さんの年齢や持病、生活スタイルに合わせた適切なお薬の調整を行います。精神症状にも配慮しながら発作をしっかりとコントロールすることで、安心して普段通りの日常生活を続けられるようサポートいたします。
高齢者てんかんの特徴と見過ごされやすい症状(疾患の特徴)
てんかん(Epilepsy)は大脳の神経細胞が電気的な異常興奮を起こし、発作を反復する疾患です。若年性のてんかんが原因不明の「特発性」を多く含むのに対し、高齢者てんかんのほとんどは脳梗塞や脳出血、脳腫瘍、認知症などの器質的脳病変に起因する「症候性てんかん」であり、脳の一部から電気的興奮が始まる「部分発作」が主体であるという特徴があります。
高齢者の部分発作(複雑部分発作など)では、全身をガクガクと震わせる典型的な痙攣発作(強直間代発作)を起こさないケースが少なくありません。代わりに、意識レベルが低下してボーっとする、口をモグモグさせる、衣服をまさぐる(自動症)、あるいは「発作性の記憶障害(一過性健忘)」「発作性の失語症」「恐怖感やデジャブ(既視感)」といった、一見すると認知症の進行や精神疾患の悪化、あるいは単なる「もうろう状態」に見える症状を来すことが多々あります。さらに、全身痙攣を伴わないまま意識障害や言語障害だけが長く持続する「非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)」に陥ることもあり、これらは脳波検査などを行わなければ見過ごされてしまう危険性があります。
てんかん患者さんにみられる精神症状の分類と「てんかん性精神病」
てんかん患者さんに合併する精神症状や行動異常は多岐にわたりますが、臨床的には大きく以下の3つに大別されます。
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発作周辺期精神症状(発作症状としてのうつ・不安・パニック)
てんかん発作の直前(前兆)や発作中、あるいは発作直後の意識混濁に伴って連動して起こる精神症状です。 特筆すべきは、「側頭葉てんかん」などの部分発作において、電気的異常興奮そのものが「精神発作」や「自律神経発作」として現れるケースです。患者さんは突然、理由のない激しい「恐怖感」や「強い不安」「抑うつ気分」に襲われたり、動悸や発汗を伴ったりするため、一見すると精神科の「パニック発作」や「急性うつ状態」と全く区別がつかない状態で発症することがあります。これらは脳の異常放電が引き起こす発作症状そのものであるため、抗てんかん薬による適切な発作コントロールが不可欠となります。 -
発作間欠期精神症状(慢性的併存症としてのうつ・不安・てんかん性精神病)
てんかん発作が起きていない慢性的かつ安定した時期(発作間欠期)に、発作そのものとは直接的な関連なく独立して出現する精神病症状(幻覚・妄想・慢性的うつ状態・不安障害など)です。
このうち発作間欠期の病態として、注意を要するのが「交代性精神病(Alternative psychosis)」です。 交代性精神病では、適切な抗てんかん薬の治療などによって、てんかん発作や脳波上の異常波(突発性異常波)が完全に抑制された時期(発作間欠期)に、発作とは関連なく活発な精神病症状(激しい妄想や幻覚、興奮など)が出現します。これは「強制正常化(Forced normalization)」と呼ばれる現象に伴って発症する精神病であり、てんかん脳波の異常と精神病症状が、文字通りシーソーのように交代して出現することからこのように命名されています。発作が止まり、脳波が正常化した状態でも生じる、てんかん特有の精神症状です。 -
抗てんかん薬による精神症状
服用している抗てんかん薬の薬理作用や副作用によって、二次的に引き起こされる精神行動症状で(後述)。
抗てんかん薬の「メリット」:気分安定薬としてのこころへの好影響
てんかんの治療は発作型に合わせた抗てんかん薬の選択が基本ですが、一部の抗てんかん薬には脳の過剰な興奮を静め、精神医学における気分安定薬として機能するという大きなメリットがあります。当院では、発作の抑制だけでなく、患者さんが抱えるうつ・不安・パニック・易怒性などの精神症状を同時に改善・コントロールするための薬剤選択を提案しています。
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バルプロ酸(デパケン®など)
部分発作・全般発作の双方に広く用いられる第一選択薬ですが、精神科領域では不機嫌・易怒性・躁状態の治療、衝動性のコントロールに対して有効性を期待します(Bowden CL, JAMA, 1994)。また、片頭痛の発作予防薬としても承認されています。 -
カルバマゼピン(テグレトール®など)
部分発作の代表的な治療薬であり、激しい躁状態や興奮状態、暴力性のコントロールに効果を発揮します(Ballenger JC, et al, Am J Psychiatry, 1980)。三叉神経痛の特効薬としても知られています。 -
ラモトリギン(ラミクタール®など)
高齢者てんかんの発作抑制において推奨されるだけでなく、精神科的には双極性障害(躁うつ病)における「抑うつ状態の再発予防」や慢性的不安の軽減に対してエビデンスを有しており、気分の土台を底上げする特性を持ちます(Calabrese JR, J Clin Psychiatry, 1999)。
抗てんかん薬の「デメリット」:精神症状やうつ病を悪化させるリスク
てんかん性精神病や発作に付随する不安・パニックのほか、抗てんかん薬そのものが気分や感情に深刻な悪影響(精神行動副作用)を及ぼすデメリットをはらむ薬剤も存在するため、元々うつ傾向や不安の強い患者さんへの投与には細心の注意と誘発リスクのモニタリングが必要です。
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トピナ®(一般名:トピラマート)、エクセグラン®(一般名:ゾニサミド)など
これらは発作抑制効果がある一方で、「抑うつ状態の誘発、意欲減退、アパシー、傾眠、食欲低下・体重減少」を引き起こしやすい特性があります(Mula M, et al, Epilepsia, 2003)。元々うつ傾向や不安障害のある患者さんに使用すると、うつ病を悪化させてしまう危険性が高いため、当院では細心の注意を払って選択しています。 -
イーケプラ®(一般名:レベチラセタム)
使いやすさから広く処方されていますが、副作用として「イライラ、易刺激性、攻撃性、感情の暴発」を比較的高い頻度で引き起こすリスクが指摘されており、元々怒りっぽい傾向のある方や、不安から神経が高ぶっている方には慎重な判断を要します(Eddy CM, et al, Ther Adv Neurol Disord, 2011)。 -
フィコンパ®(一般名:ペランパネル)
AMPA受容体拮抗薬に分類されます。レベチラセタムと同様に、副作用として「易刺激性や攻撃性、気分の高ぶり」が出現しやすく、特に多剤併用時や高用量投与時には攻撃的行動の監視が不可欠です(Trinka E, et al, Acta Neurol Scand, 2016)。 -
クロナゼパム(リボトリール®・ランドセン®など)
ベンゾジアゼピン系薬です。抗痙攣作用やレム睡眠行動異常症(RBD)の改善、パニック症の補助療法に有効(※)ですが、高齢者や認知機能が低下している方に使用すると、ベンゾジアゼピン系特有の「脱抑制」が生じ、かえって多動や興奮、夜間錯乱を来すことがあります。
※多くは本邦では適応外です。
当院における「脳とこころ」のトータルコントロール
このように、てんかんに伴う精神症状は、それが「異常放電による発作症状(側頭葉てんかん等)」なのか、「間欠期の併存症」なのか、あるいは「薬の副作用」なのかによって、対処法が180度異なります。単に「発作を止める」という視点だけで薬剤を選でしまうと、潜在的なうつ病を悪化させたり、精神病症状による急激な不穏を誘発したりして、患者さんの生活をかえって破綻させてしまう恐れがあります。 当院の「脳とこころの専門外来」では、脳神経内科専門医としてのてんかん診断を行うと共に、精神科医としての精神薬理および精神症状の診立てを行い、「精神症状を最も良くし、かつ発作を安全に抑え込む抗てんかん薬の処方設計」を目指しています。「てんかんの薬を飲み始めてから、怒りっぽくなった、元気がなくなった」「パニック発作やうつ病だと思っていたら、てんかんの可能性を指摘された」といったお悩みに対し、1つの外来で対応いたします。お困りの際は、どうぞご相談にお越しください。

この記事の執筆者
岩田 邦幸 (笠寺精治寮病院 副院長 / 医学博士)
精神保健指定医、日本専門医機構精神科専門医、日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、臨床神経心理士、日本医師会認定産業医。脳神経内科と精神科の二刀流Drとして両科の知識と経験を活かし、「脳とこころの専門外来」にて最新のエビデンスに基づいた神経精神分野(neuropsychiatry)の診療、パーキンソン病治療、認知症治療・BPSD治療などを提供している。