名古屋市南区・笠寺の精神科・神経科病院

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遅発性ジスキネジア

患者さまとご家族の方へ(このページの簡単な要約)

お薬(精神科のお薬や、一部の胃腸薬など)を長期間飲み続けているうちに、自分の意志とは関係なく「お口が勝手にもぐもぐ動く」「舌が出る」「手足が勝手に動く」といったお体の症状が出ることがあります。これを「遅発性(ちはつせい)ジスキネジア」と呼びます。

この症状は、入れ歯が合わない場合や、他の「ふるえ」の病気などと見分けることが難しいため、お薬の調整を含めた専門的な正しい診断がとても大切です。これまでは「元のお薬を減らすと精神的な症状が悪化してしまう」という理由から治療が難しいとされてきましたが、現在は新しいお薬も登場しています。

当院では、元々の心の病気やお体の安定をしっかりと守りながら、最新の医学的データに基づいて、患者さん一人ひとりに合わせた安全で最適な治療を行っています。

遅発性ジスキネジアとは(疾患の特徴)
遅発性ジスキネジア(Tardive Dyskinesia: TD)は、抗精神病薬や抗うつ薬、あるいは胃腸薬などのドパミン受容体遮断薬を長期服用(少なくとも3ヶ月間、60歳以上では1ヶ月間)した後に生じる、薬剤誘発性の難治性不随意運動です(DSM-5-TR。 主な症状として、無意識に口をもぐもぐさせる、舌を左右に動かす・突き出す、不規則に眉間にしわを寄せるといった頭部・顔面の症状(約65.7%に発現)が高頻度で見られますが、手が勝手に動く、足が動いて歩きにくいといった四肢・体幹の運動過多として現れることもあります(Caroff SN, et al. J Clin Psychopharmacol. 2020。その発症機序は、お薬によって脳内(線条体)のドパミンD2受容体が長期遮断されることで、受容体がドパミンに対して過剰に反応してしまう「ドパミン過感受性(アップレギュレーション)」が生じるためと考えられています。症状が進行すると、食事や会話、セルフケアなどの日常活動(QOL)を大きく阻害するだけでなく(McEvoy J, et al. Qual Life Res. 2019)、重症例では呼吸困難を伴う呼吸性ジスキネジアに至ることもあり、年齢補正後も非合併例に比べて死亡リスクが有意に高くなることが報告されているため、適切な診断と治療が極めて重要です(Chong SA, et al. J Clin Psychopharmacol. 2009

なぜ「不随意運動の丁寧な鑑別」が必要なのか
お薬の服用中に現れるお体の異常な動き(錐体外路症状)は多岐にわたるため、治療方針を決定する前に、それが遅発性ジスキネジアであるか否かを厳密に鑑別診断する必要があります(稲田俊也. 精神医学 2024 / DIEPSS

  • 薬剤性パーキンソニズム(振戦)との鑑別
    薬剤性パーキンソニズムで見られる振戦は、口部や手指などに規則的・律動的(4〜8Hz)に起こるリズミカルな「ふるえ」です
    。これに対し、遅発性ジスキネジアは「他覚的に無目的で不規則な動き(舞踏病様・アテトーゼ様)」であり、その性質が明確に異なります(DSM-5-TR

  • ラビット症候群(rabbit syndrome)との鑑別
    抗精神病薬の服用により、まるでウサギの口元のように口唇が細かく規則的に震える「ラビット症候群」という薬剤性特異症状があります
    。これも規則的な振戦の一種(パーキンソニズムに類似)であり、不規則に動く遅発性ジスキネジアとは治療アプローチが異なります(Villeneuve A. Can Psychiatr Assoc J 1972

  • 高齢者の特発性「口部ジスキネジア」との鑑別
    お薬の服用歴がない高齢者であっても、歯がないこと(無歯症)や適合しない義歯、あるいはマスクによる感覚トリックなどが原因となり、特発性に口元をもぐもぐさせる「口部ジスキネジア」を生じることがあります(Koller WC. Ann Neurol 1983 / Blanchet PJ, et al. Mov Disord 2004
    。この場合は歯科的なアプローチを含めた別の対応が必要です

  • ジストニアやアカシジアとの鑑別
    筋肉が持続的に突っ張り異常な姿勢をとる「ジストニア」や、足がムズムズしてじっとしていられない内的不穏を呈する「アカシジア」とも区別し、内服薬の履歴と不随意運動の客観的評価尺度(AIMSやDIEPSS)を用いて適切に除外・診断を進めます

旧来の治療戦略における課題
従来の治療では、原因となっている精神科薬の減量や中止、あるいはドパミン遮断作用のより弱いお薬への「変薬(切り替え)」が主な選択肢でした。 しかし、不随意運動を抑えるためにお薬を急に減量・中止すると、元々治療していた精神症状(統合失調症、双極性障害、難治性うつ病など)が再発・悪化するリスクがあり、臨床現場では非常に治療が難しい病態とされてきました。さらに、以前よく行われていた抗コリン薬(パーキンソン症状を抑える薬など)の追加は、遅発性ジスキネジアの症状をむしろ悪化させることが知られており、根本的な改善を導くことが困難でした。

当院における最新のエビデンスに基づく治療方針
当院では、精神科薬理学の最新知見に基づき、元々の精神症状の安定(原疾患のコントロール)と、ジスキネジア症状の緩和を両立させるための最適かつ安全な薬物治療を行っています。

  • 計画的な処方整理と「変薬」アプローチ
    まずは現在の服用薬を詳細に評価し、原因となる抗精神病薬や抗うつ薬の中で、不必要な処方の整理や減量を段階的に行います。変薬が必要な場合には、ドパミン受容体への過度な感受性亢進を起こしにくい非定型抗精神病薬等へと、精神症状の慎重なモニタリングを行いながら計画的に切り替えを図ります。

  • VMAT2阻害薬「ジスバル®(バルベナジン)」を用いた最新治療
    2022年に国内で登場したジスバル®(一般名:バルベナジン)は、脳内のドパミン放出を調節する「水疱モノアミントランスポーター2(VMAT2)」を特異的に阻害する、遅発性ジスキネジアに対する国内初の適応薬です。臨床試験において、長年改善が難しかった重度の不随意運動を改善することがエビデンスとして証明されています(Hauser RA, et al. Am J Psychiatry, 2017)。

  • 至適用量の見極めと、効果・副作用の緻密なバランス管理
    ジスバル®(一般名:バルベナジン)は有効性を持つ反面、高齢の方や併用薬をお持ちの患者さんでは、傾眠(強い眠気)、ふらつき、パーキンソニズム(体の動きにくさ)の出現といった副作用に十分注意する必要があります(Yamamoto N, Iwata K, et al, Psych Res Case Rep, 2026)。 当院では、必要に応じて客観的評価スケールを用いて不随意運動を評価しながら、1日1回40mgの開始用量から治療を開始します。患者さんごとの薬物動態や効果、そして副作用の出現状況を厳密に見極め、必要に応じて80mg等へと調節し、患者さん個々における「最も安全で効果が最大となる最適な量(至適用量)」を見つけ出すきめ細やかなオーダーメイド治療を提供しています。

この記事の執筆者

岩田 邦幸 (笠寺精治寮病院 副院長 / 医学博士)

精神保健指定医、日本専門医機構精神科専門医、日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、臨床神経心理士、日本医師会認定産業医。脳神経内科と精神科の二刀流Drとして両科の知識と経験を活かし、「脳とこころの専門外来」にて最新のエビデンスに基づいた神経精神分野(neuropsychiatry)の診療、パーキンソン病治療、認知症治療・BPSD治療などを提供している。

主な疾患・病態

精神症状を伴う神経疾患、精神科治療薬により生じた神経症状の治療を行っています。
それぞれの専門的な治療方針については各記事を参照してください。

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