「パーキンソン症候群」とは、パーキンソン病と同じように「手足が震える」「体が硬くなる」「動作が遅くなる」といった症状が出ますが、その原因がパーキンソン病とは異なる病気や状態の総称です。
原因には、脳の血管の病気や他の脳の病気のほかに、精神科のお薬や一部の胃腸薬などを飲み続けることで起こる「お薬の副作用(薬剤性パーキンソニズム)」が少なくありません。パーキンソン病とは治療に使うお薬や対応が全く異なるため、まずは「何が原因で症状が出ているのか」を正しく見極めることが重要です。
当院では、原因を判断した上で、それぞれの背景に応じた適切な治療を行います。特にお薬の副作用が原因である場合は、元々の病気の安定を守りながら、原因となるお薬を安全に減らしたり、別の種類に変えたりする「お薬の調整」を行い、症状の軽減と生活の質の維持を目指します。
パーキンソン症候群とは
パーキンソン症候群は、動作緩慢(動きの遅さ)を必須とした上で、筋強剛(筋肉のこわばり)、静止時振戦(手足のふるえ)、姿勢反射障害(バランスの悪さ)といった運動症状のうち、2つ以上の症状を呈する状態の総称です(MDS診断基準, 2015年)。 その原因となる病態はきわめて多岐にわたり、本態性疾患である「パーキンソン病(PD)」や「レビー小体型認知症(DLB)」などの神経変性疾患だけでなく、向精神薬などの服用に伴う「薬剤性」、脳梗塞・脳出血による「脳血管性」、さらには「正常圧水頭症」といった器質性疾患に起因するものまで含まれます。
精神科だからこそ重要な「薬剤性パーキンソン症候群」と「パーキンソン病」の鑑別
精神科の臨床現場においては、統合失調症や気分障害(うつ病・双極性障害)の治療に用いられる抗精神病薬や抗うつ薬、あるいは胃腸薬などのドパミンD2受容体遮断薬によって生じる「薬剤性パーキンソン症候群」を頻繁に経験します。そのため、現れたお体のこわばりやふるえが、お薬の副作用によるものなのか、あるいはパーキンソン病などの神経変性疾患の初期症状なのかを厳密に切り分けることがきわめて重要となります。 臨床的な特徴として、薬剤性は「症状の左右差が少なく対称性であること」「進行が急速であること」「静止時よりも姿勢時や動作時の振戦が目立つこと」などが挙げられます。これに対し、パーキンソン病は「初期から明らかな非対称性(左右差)があること」「静止時にふるえが強くなること」「レボドパ製剤に対して劇的かつ明白な反応を示すこと」などが特徴であり、内服薬の確認と綿密な不随意運動の観察(神経診察)を通じてこれらを見極めていきます。
「単なる副作用」に隠された潜在的パーキンソン病理への注意
しかし、実際の診療においては、お薬の副作用(薬剤性)と判断して被疑薬を減量・中止したにもかかわらず、症状が十分に改善しなかったり、その後にパーキンソン症状が進行していったりする症例をしばしば経験します(Brigo F, et al. Parkinsonism Relat Disord, 2014)。これは単なる一過性の副作用ではなく、患者さんの脳内に元々潜在していたパーキンソン病やレビー小体型認知症の病理(ドパミン神経系の脆弱性など)が、ドパミン受容体遮断薬の服用を契機として早期に表面化・顕在化した可能性を考慮しなければなりません(Shuaib UA, et al. Mov Disord, 2016)。当院では、お薬の調整を行っても運動症状が残存・進行する場合には、単なる副作用として見過ごすことなく、ドパミントランスポーターシンチグラフィ(DAT-scan)やMIBG心筋シンチグラフィといった客観的なバイオマーカー検査を提案します。これにより、薬剤性の背景に潜む本質的な神経変性病理(レビー小体病など)を早期に発見できる場合があります。
他疾患(MSA、PSP、CBS)の早期発見と脳神経内科との緊密な連携
パーキンソン症候群を呈する代表的な難治性変性疾患には、パーキンソン病のほかに、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBS)などがあります。これらは臨床初期においてパーキンソン病と酷似した無動や固縮を示しますが、治療の経過とともに疾患特有の随伴徴候が現れてきます。 具体的には、早期から重篤な立ちくらみや排尿障害を伴う著しい自律神経障害や小脳失調(MSA)、他動的には動くものの自発的に目が上下に動かなくなる垂直性核上性眼球運動障害や頸部の後屈(PSP)、自分の意思とは無関係に手が勝手に動く他人の手徴候や極端な左右差を伴う失行(CBS)」といった特殊な神経症候が鑑別のポイントとなります(Armstrong MJ, et al. Neurology, 2013)。当外来では、担当医の脳神経内科での経験を活かし、これらの非典型的なパーキンソン症候群の徴候を日頃の診察や行動観察から早期にキャッチし、疾患の可能性が疑われる段階で、脳神経内科外来での精査・鑑別診断を依頼しています。精神症状のマネジメントを当院が担い、詳細な神経学的精査や特殊な運動症状の管理を脳神経内科が担当するという、両科の強みを活かした共同診療を行うことで、患者様へ最も安全で負担の少ない医療を提供しています。

この記事の執筆者
岩田 邦幸 (笠寺精治寮病院 副院長 / 医学博士)
精神保健指定医、日本専門医機構精神科専門医、日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、臨床神経心理士、日本医師会認定産業医。脳神経内科と精神科の二刀流Drとして両科の知識と経験を活かし、「脳とこころの専門外来」にて最新のエビデンスに基づいた神経精神分野(neuropsychiatry)の診療、パーキンソン病治療、認知症治療・BPSD治療などを提供している。